「へぇ…。新撰組発祥の地ですよ!自分もその時からいたかったです!」
市村に関しては14歳で幕臣になってしまった。
もはや新撰組もただの田舎侍の集まりではない。
近藤に関しては大御番組頭取、土方は大御番組頭だ。
沖田や美海などの助勤は大御番組に取り立てられ、監察は大御番並。
平隊士の立場はガクリと下がるのだが、それでも直参である。大した出世だ。
大御番は将軍の護衛のようなものだ。
土方はあまり気にしていないようだが、近藤は大いに喜んだ。
慶応三年六月十日のことだった。脫髮 維他命
ガラッ
「総司!ちょっといいか?」
急に戸が開くと、隊服姿の永倉がいた。
「はい」
沖田は立ち上がると部屋を出る。
最近あまりご飯を食べないため、なんだかおぼつかない足取りだ。
早く薬を完成させなきゃ…。
もう後少しなんだけどなぁ…。
「なんでしょうね?」
市村が首を傾げる。
「さぁ?」
「永倉さん。何ですか?」
「いやぁ。さっきの巡回で鍛冶屋の親父さんに会ってさぁ」
「サブさん!元気でした?」
「あぁ。で、これ、総司に渡してくれって」
ゴソゴソと胸元を探る。
「ほら。手出してみ」
沖田は黙って手を出した。
コロン
「これは!」
「指輪?だっけ?結局総司が模様を決めれなかったからただの銀の塊になって悪いって言ってたぜ」
「いえ!充分です」
なんだか不恰好な曇った銀が手のひらに乗っている。
「ツルツルしたとこで擦ると輝くらしいぜ。頑張れ」
「はい!」
永倉はその場を去ろうとしたのだが思い出したように振り返った。
「早く隊務に戻れるようにしろよ!一番隊がしょげすぎてやりづらいったらありゃしないぜ」
永倉は苦笑いしている。
「すいません」
沖田は笑った。
最近では床に着きっぱなしの沖田の代わりに今は永倉が一番隊と二番隊を掛け持ちしているのだ。
沖田が帰ってくると信じて新しい隊長はつけないし、美海も医療に忙しいため格上げはしない。
早く戻ってあげなきゃなぁ。
沖田は消極的な考えはしなくなった。美海を信じて治ると信じる。
あ。もうすぐ土方さんの薬の時間だ。
不味いし、嫌だなぁ。
沖田は大切そうに指輪をしまうと表情を曇らせながら部屋に向かった。
ガラッ
「ん。遅かったですね」
既に市村はおらず、美海が寝転がりながら煎餅をかじっている。
沖田も近くに座ると煎餅を取った。
「鉄くんはどうしました?」
「鉄くんは土方さんにこき使われてます」
「なるほど」
沖田は頷いた。
鉄くんにしたらいい迷惑かもしれないけど、若い鉄くんを危険に晒したくない土方さんなりの優しさだからな。
まぁ今まで小姓を取っていなかった分容赦はないけど。
それから程なく土方が来て、沖田は嫌々薬を飲んだ。
「相変わらず不味そうですね」
土方が去ってから美海が言う。
「はい。けどこれのお陰でか最近は調子いいですけどね」
苦笑いする沖田を見て心配になる。
確かに咳は減ったが調子はいいのか。
「まぁ病は気からって言いますしね」
バタバタバタバタ!
コンコン!
「「はーい」」
「失礼します!立花さん!怪我人が出ました!至急お願いします!」
「わかりました」
美海は立ち上がる。
「いってらっしゃい」
沖田はヒラヒラと手を振った。
「状態は?」
「はい。腹部を大きく切られ…
次第に美海達の声は遠くなった。
沖田は胸元から指輪を出す。
近くの机で擦ってみた。
「わぁ」
擦った部分だけキラキラと輝く。
私の菊一文字がこんな素晴らしいものになるなんて。
磨けば光るってこう言うことか。
沖田はしばらく指輪を擦った。