そう声を掛ければ三津は声に合わせて深呼吸をする。
「はい,吸って……吸って……吸って……。」
「ねぇ吐かせて?」
三回吸った所で肺パンパンだわとご立腹。
「ふっ……ふふっ。だって素直すぎるんで。か……可愛いですね……。」
「そんな笑って言われても馬鹿にされてるようにしか思えませんが。」
とんだ悪戯っ子だなと頬を膨らますが,すっかり気持ちも軽くなっている自分にも気付いた。喉を鳴らし肩を揺らして笑うこの姿何度見たことか。
「……お陰で落ち着きましたありがとうございます。」 瘦面botox
「それなら良かった。」
満足したのか入江はまた本を開いた。それを見てようやく集中出来ると三津は黙々と手を動かした。
この静かな時がどれほど流れたかは分からないが,
「失礼するよ。」
お迎えの声に三津は嬉しそうに障子の方を見た。
「三津帰ろうか。」
「はい!入江さん多分ちょっとはマシになりました。」
三津は着物を丁寧に畳んでどうぞと突き出した。
「ありがとうございます。また明日お願いする用の着物作っときますね。」
作ると聞いて三津の眉間に皺が寄った。
「え?態と破る気?その前にこの着物もどんな遊びしたらそんな破れ方するんですか。」
「そりゃ三津さんには分からない大人の遊びですよ。明日もお待ちしてますね。」
そんな入江に反論しようと口を開きかけた三津を桂が止めにかかった。
「九一,からかうのはこの辺までにしといてくれ。」
これ以上相手にしては帰るのが遅くなる。早く帰って二人の時間を過ごしたいんだ。
言い返せなくてちょっと顰めっ面の三津を部屋から連れ出して帰路についた。
「九一ともすっかり仲良くなってるね。」
「遊ばれてるだけです。」
中身はとんだ子供だと頬を膨らませた。
「私の知らない所で楽しそうなのはちょっと妬けるね。帰ったら独占させてくれよ?」
膨れた頬に右手を添えて親指で三津の下唇をなぞった。
「ちょっ!道端で止めてください!」
「何で?これ以上の事して欲しくなるから?」
「こんな道端でそれ以上何する気ですか?桂さん。」
二人の目の前には不機嫌そうに腕組みをする吉田。
「三津お土産あげるよ。さぁ藩邸に戻ろう。」
ぽかんとする三津の手を取り藩邸へと引き返させようとする。その手を叩き落とそうとした桂に吉田は耳打ちをした。
「すぐ近く。鬼の密偵が彷徨いてます。」
『なるほど。早速私と三津の安息の場所を探ろうなんて不躾にも程がある。』
桂と吉田は頷き合うと三津の両側からそれぞれ腕を絡めとり,
「え?何?理由あるならちゃんと教えて?」
半ば引きずる様に藩邸の中へ戻った。「あれ?どうしたんですか?」
連行される様に戻って来た三津を見てアヤメが駆け寄った。
「アヤメさんすまないが今日の夕餉私と三津の分も頼めるかな。」
「勿論です桂様!すぐにサヤさんに伝えて参ります!」
アヤメは笑顔で頭を下げるとすぐさま三人に背を向けて走った。
「アヤメさんてあんなに明るい子でしたか?」
吉田が首を捻って桂を見た。
「今日で三津と仲良くなっていた。私に隠し事をする程に。」
にっこり笑って三津を見下ろす。
「根……根に持ってらっしゃいますね……。」
引き攣った顔の三津を目に映し,態とらしく何が?と小首を傾げて見せた。
『それを問い詰めるのを帰宅後の楽しみにしてたと言うのに。』
藩邸では何も出来ないではないかと顔には出さないが腹立たしい。
「おぉ三津さんまだ帰っちょらんかったか。で,これは何事じゃ?」
外から戻った乃美が桂と吉田に両側から腕を絡めとられた囚われの身状態の三津をしげしげと見た。
「乃美さん空いてる部屋を一つ三津に充てがってもらえませんか?どうやら壬生狼がこの辺りまで来てるようで。」